佐賀iroha-n

鍋島朝寿(なべしまともひさ)さん(神主)

2018.03.01

佐賀iroha第4弾は、伝え手。佐賀で伝統を守り、次世代に伝えようと頑張る方をご紹介します。今回は、神主の鍋島朝寿さんです。


インスタ映えとプチうんちく
鹿島市に鎮座する祐徳稲荷神社。日本三大稲荷にも数えられる大社で権宮司を務めていらっしゃるのが鍋島朝寿さんです。権宮司とは宮司のサポートをする役職。その業務内容は神社によって様々ですが、鍋島さんは、経理や人事から衛生管理者、博物館の学芸員まで、実に多くの役割を担っていらっしゃいます。330年前の鎮座より、代々祐徳稲荷神社を守ってきた家系に生まれ、自身もその道を選んだ鍋島さんは、その重責をも楽しむ発想の持ち主です。「祖父がカリスマ的な宮司でしたので子供心にも尊敬と同時に祖父のようになれる訳がないという思いが強かった。でも高校時代、授業で生物の進化について教わる中で、強いものではなく『環境に適応する能力を備えるものこそが生き残る』の言葉が心に響きました。祖父や父と異なる遺伝子をもち異なる時代を生きる私には、私ならではの特長を求められるものがあるはずだと思えてきました。おまけに憧れの東京の大学に行かせてもらえるし、なんて」と笑う鍋島さん。2013年にタイの映画の舞台となったことをきっかけに、タイを始め世界各国からも多くの観光客が祐徳稲荷神社を訪れるようになりました。「うちは人種、宗教、国籍を問わずウェルカムの神社です。いつも心の片隅に祐徳稲荷があり、折に触れを思い浮かべて、参拝に足を運んでくださる。これがとても大切なことです。そのために何をしなければいけないかを常に考えています。今はインスタグラムを見てどこに行こうか考える人が多い。ではインスタ映えする景色を発信しよう。そのためには清浄な雰囲気と四季折々の季節感。境内や社殿の清掃を始め樹木の手入れや参道の整備など更に力を注ぎました。私はディズニーランドが好きですが、いつもお掃除しておられ、その姿も風景と自然に同化しています。竹ほうきを持つ巫女の姿は朝の清々しい境内の風景そのものです。また神様の気に触れることもできますので、しみじみとした気持ちでご奉仕をしています」(鍋島さん)。また、パワースポットブームに伴い、若い参拝者が押し寄せた際も鍋島さんは「これを機にご縁を結べるなら素晴らしいと思いました。中には神社まで来ていながら『パワースポットはどこですか?』と聞く方もいました。神様がいらっしゃる神社こそがパワースポットだし、深呼吸をして気持ち良いと感じれば、そこがあなたにとってのパワースポットですよ」と気さくに話すなど、参拝者との交流をとても大切にしています。「この神社の神様はどんなご利益で知られているのだろう? この神社の創建はいつ頃だろう? なぜこの場所に建てられたのだろう? なぜ神様のお使いが狐なのだろう? 素朴な疑問を理解すると、参拝のインパクトが全然違います。そういう思いで、お話をする機会を作っています。難しい話ではなく、男性の方には飲み屋さんで、女性の方には女子会で話したくなるようなプチうんちくをお話しています。拡散希望です(笑)。プチうんちくを聞いた方が一杯飲むことで喜ぶお店が一軒でもあったらいいなと思っています」(鍋島さん)。そのお話の面白さから、今では観光ツアーのスケジュールに鍋島さんの話が組み込まれることもあるのだとか。

伝統を守る進化の力
世代や宗旨の枠を超えて多くの人に発信したい、迎え入れたい、という思いの根元は神主としての責務によるものだと鍋島さんは言います。「私が思う神主の責務は、神社の伝統を守り、神道の意義を今に伝える事と、後継者を育てることです。もし自分の代で絶やしてしまったら神主失格だと私は思っています。そのためには、あの人みたいになりたい、あの神社で神様に仕えたいと思ってもらうことが必要です。また、後継者を育てるには神社の運営も大事です。たくさんの方々が御祈祷を受けて玉串料を奉納くださり、お札や御守りも受けていただく。そういったご浄財があってこそ、よりよい神社となって、また参拝者の方々に還元できるという、この繰り返し。そして“神は人の敬いによって威を増し、人は神の徳によって運を添う”(御成敗式目)という言葉の通り、元来神社は人々のコミュニティーの場であって、人が集まり手を合わせる事によって神威を増し神社は栄えます。また人々は神への祈りを通して仲良くなり謙虚な気持ちから運気を上げる。昔から神と人は持ちつ持たれつの関係がありました。神様を人の御用聞きにしてしまったらダメですよね(笑)。この国には神社のみならず素晴らしい伝統と文化が継承された職業があります。今に生きる伝統を考えた時、伝統とは“結果”であることに気づきます。今ある伝統より過去に消えた伝統のほうが圧倒的に多い。時代と融合して進化したもののみが今に生きる伝統として存在する。進化してこそ守れる伝統が、この神社のテーマだと思っています」。
鍋島さんのお話を伺っていると、一般的な神主さんのイメージとは、少し、いや大きくかけ離れていると感じます。「難しく考えず、神社に行ってみたいなという素直な気持ちを大事にしてもらいたいですね。よく『結婚式を挙げたいけど絶対大安が良いのですか?』なんて今すぐにでも結婚したい方から聞かれる事があります。むしろお二人のインスピレーション優先でいきましょう! 神社は毎日が大安吉日ですよ! とお答えします(笑)」と話す鍋島さんは、伝統を守る、という覚悟の大きさに比例した、広い広いアンテナで受信と発信に勤しむ好奇心に溢れていました。
みなさん、佐賀にお越しの際は、ぜひ祐徳稲荷神社で鍋島さんと一緒に神道を面白がってください。


鍋島朝寿さん。神主。祐徳稲荷神社権宮司。